農地の転用や農業経営移譲(農地法)
農地の転用や経営の移譲には、農地法の許可・届出が必要です
農地法の種類と内容
法律の条項 | 条項の内容 | 備考 |
農地法第3条 | 農地の所有権を移転したり、耕作する権利を設定する場合に必要な申請です。当該農地と当事者が同一の市町村に居住する場合は当該市町村の農業委員会、他の市町村の場合は、県知事許可となります。 また、買主は農家資格や農業生産法人等の一定の資格が必要です。賃貸などの権利設定に関しては、法人であれば認められています。 | 小作契約など、有償の貸し借りは賃貸借、親子間など無償の貸し借りや経営権の委譲は使用貸借 |
農地法第4条 | 農地所有者が何らかの目的で、当該農地を転用する場合に必要な申請です。権利の移動や設定はありません。 | |
農地法第5条 | 所有権の移転、権利の設定(賃貸借等)を伴う農地を転用するときに必要な申請です。 | 有償の貸し借りは賃貸借、親子間など無償の貸し借りは使用貸借 |
農地をどうしたいのか
事例 | 土地の要件 | 申請の提出先 | 法律の条項 |
農地の転用 | 市街化区域 (藤枝市・焼津市・静岡市) | 市役所内の農業委員会へ届出 | 農地法第4条・5条 |
農地の転用 | 市街化調整区域・都市計画区域外 (藤枝市・焼津市・静岡市) | 市役所内の農業委員会へ許可申請 | 農地法第4条・5条 |
未線引き地域・都市計画区域外 (島田市・牧之原市) | 市役所内の農業委員会へ許可申請 ※榛原郡は農業委員会経由で県知事許可 | ||
農地の名義変更 農地の貸し借り 経営者の移譲 | 特に制限はありません | 市役所内の農業委員会へ許可申請 | 農地法第3条 |
農地に係る規制は、農地法とともに、都市計画法が大きく関わってきます。市街化区域、市街化調整区域、線引き・未線引き等、用語の解説につきましては、下記の補足説明をご覧ください。
転用不可の農地と転用可能な農地
農地には、転用可能な農地と、原則できない農地とに区分されます
農地の許可基準
区分 | 営農条件、土地の状況 | 許可の方針 |
農用地区域内農地 (※) | 市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地 | 原則不許可 |
甲種農地 | 第1種農地の条件を満たす農地であって、市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった農地(8年以内)等、特に良好な営農条件を備えている農地 | 原則不許可 |
第1種農地 | 10ha以上の規模の一団の農地、土地改良事業等の対象となった農地等良好な営農条件を備えている農地 | 原則不許可 |
第2種農地 | 鉄道の駅が500m以内にある等市街地化が見込まれる農地又は生産性の低い小集団の農地 | 周辺の他の土地に立地することができない場合等は許可 |
第3種農地 | 鉄道の駅が300m以内にある等の市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地 | 原則許可 |
農用地区域内農地
一般に「農用地」、または「青地農地」ともいわれます。農地保全のために厳しく制限されており、原則、農地以外の土地利用はできません。
しかしながら、どうしても転用せざるを得ない事情があった場合など、例外も認められています。原則、転用はできませんから、転用許可ではなく、農用地の指定を外すような手続きの「農用地除外」という申請を行うことになります。
この要件は非常に厳しく、以下の5つの条件をすべて満たすことが求められています。
この要件は非常に厳しく、以下の5つの条件をすべて満たすことが求められています。
- 除外したい農用地以外に代替すべき土地がないこと。
- 集団性のある農用地を分断しない、あるいは農作業を行う上での支障が軽微であること。
- 農用地の利用集積に支障を及ぼすおそれがないこと。
- 用排水路などの土地改良施設の利用に支障を及ぼすおそれがないこと。
- 土地基盤整備事業完了後8年を経過していること。
白地農地
正しくは、「農業振興地域内農用地区域外農地」といい、青地に対する言葉として、一般に「白地」と呼ばれています。
土地改良事業などを行っていなかったり、農地の集団性が低いと判断され、農用地(青地)の指定がなされなかった農地で、原則として、農地以外への転用は、比較的緩くなっています。
しかしながら、白地農地であっても、上記のように、第1種農地に指定されている場合もありますので、転用には注意が必要です。
土地改良事業などを行っていなかったり、農地の集団性が低いと判断され、農用地(青地)の指定がなされなかった農地で、原則として、農地以外への転用は、比較的緩くなっています。
しかしながら、白地農地であっても、上記のように、第1種農地に指定されている場合もありますので、転用には注意が必要です。
転用可能な農地での許可の要件
市街化調整区域や未線引き区域での転用可能な農地の許可
- 市街化調整区域内である場合、都市計画法の規制と合致しなければなりません。
建築を伴う転用の場合、都市計画法で規定する市街化調整区域に適合した建物や、農家分家住宅、日用品販売店舗などの許可の要件を備えた建築物等である必要があります。 - 転用に係る事業を行うのに必要な資力等が必要です。
土地の造成や建設費等、転用目的には相応の費用がかかりますので、その資金力や調達能力が必要です。多くの場合、残高証明や融資証明など、資金証明書を求められます。 - 許可後はただちに転用事業を行う必要があります。
事業を始めるには、ある程度の緊急性が求められるため、開始時期や工事期間等を明確にする必要があります。また、許可後、進捗状況の報告書提出や、事業終了後、転用確認の届出を要します。 - 転用面積は、事業目的に適した面積としなければなりません。
建築物にせよ、駐車場や資材置き場等、事業目的に応じた適正な面積であることが求められ、必要以上の転用は認められません。場合によっては、土地の分筆登記などを要する場合もあります。 - 周辺農地に悪影響を及ぼす恐れがないと認められることが必要です。
転用することにより、周辺農地や周囲環境に悪影響を及ぼさないことが求められます。土砂流出等の災害発生、 農道・水路等、農業用施設のへの支障、 集団的農地の分断、 日照や通風等への悪影響などが想定される場合、防止策を講じる必要があります。 - 転用農地と一体で農地以外の土地を利用する場合、その土地が申請目的として利用されなければなりません。
住居や事業所等の敷地拡張など、申請農地を含めて一体利用する場合、その一体利用の土地の使途は、申請目的と同じでなければならず、目的外使用は認められません。
都市計画法(市街化調整区域)の建築許可
市街化調整区域では、建物の建築が制限されています
市街化調整区域に適合した建物(許可を要しない事例・適合証明)
建築物の種類 | 事例 |
農林漁業従業者のための住宅、用に供する建物 | 農家住宅、農業施設、畜舎等 |
公益上、必要とする建築物 | 図書館、公民館、変電所、駅舎等 |
既存建築物の建て替え | 自己の住居、事業に供する建物 |
要注意
「許可を要しない」は、法律上の解釈の話です。許可不要でも、現実には申請はしなければなりません。一般に「適合証明」ともいいます。
以下に記した申請の添付書類(ほとんどが図面類)だけでも、いかに面倒な申請か、お分かりいただけるかと思います。
以下に記した申請の添付書類(ほとんどが図面類)だけでも、いかに面倒な申請か、お分かりいただけるかと思います。
- 申請に必要な添付書類
案内図、公図(法務局)、現況平面図、計画平面図、計画建物の各階平面図・立面図、当該土地の縦横断面図、敷地求積図、土地の登記事項証明書、現況写真等、申請の根拠を示す書類(農家資格証明書等)
開発行為(土地の区画形質を変更する行為)とは
開発許可ともいいます。開発行為とは、「主として建築物の建築または、特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更」のことをいいます。都市計画区域の内外にかかわらず、規模の大きな土地造成などが該当します。また、市街化調整区域においては、下記の一覧のように、特定の要件に即した事案でなければ許可されません。土木の専門知識が必要で、申請には膨大な添付資料・図書を要し、きわめて難易度の高い申請となっています。
許可を要する事例・開発許可(法第34条の規定)
No. | 開発行為等の内容 | 備考 |
1号 | 主に市街化調整区域内の居住者の利用に供する公益上必要な建築物又は日常生活に必要な物品の販売、加工、修理等の業務を営む店舗等の用に供する目的で行う開発行為 | 日用品販売店舗、保育園、診療所、幼稚園、食料品店、農機具修理工場等 |
2号 | 市街化調整区域内の鉱物資源、観光資源等の有効利用上必要な建築物等の用に供する目的で行う開発行為 | 観光店舗等 |
3号 | 温度、湿度、空気等について特別の条件を必要とする事業の用に供する建築物等で市街化区域内に建築することが困難なものの用に供する目的で行う開発行為 | 政令未制定のため該当なし |
4号 | 農林漁業の用に供する建築物(開発行為の許可不要のものを除く)又は市街化調整区域内において生産される農林水産物の処理、貯蔵、加工のための建築物等の用に供する目的で行う開発行為 | 農産物加工工場、選果場等 |
5号 | 特定農山村地域における農林漁業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律の所有権移転登記等促進計画に定める利用目的に従って行う開発行為 | 該当なし |
6号 | 都道府県が国又は独立行政法人中小企業基盤整備機構と一体になって助成する中小企業の事業の共同化又は工場・店舗等の集団化に寄与する事業の用に供するために行う開発行為 | - |
7号 | 市街化調整区域内の既存工場の事業と密接な関連を有する事業の用に供する建築物のための開発行為 | - |
8号 | 危険物の貯蔵又は処理のための建築物で市街化区域内に建築することが不適当な一定のものの用に供するための開発行為 | 花火工場等 |
9号 | 道路の円滑な交通を確保するために適切な位置に設けられる道路管理施設、休憩所、給油所等のための開発行為 | 沿道サービス。ガソリンスタンド、ドライブイン、コンビニ |
10号 | 地区計画又は集落地域整備法に基づく集落地区計画の区域(地区整備計画又は集落地区整備計画が定められている区域に限る。)において、当該地区計画又は集落地区計画に適合する開発行為 | - |
11号 | 市街化区域に隣接又は近接し、建築物が連たんしている地域のうち、条例で指定する区域において行う開発行為で、予定建築物の用途が環境保全上支障があると条例で定めた用途に該当しないもの | - |
12号 | 市街化区域において行うことが困難又は著しく不適当と認められ、市が条例で定めたものに該当する開発行為 | - |
13号 | 市街化調整区域が定められた際、自己の居住用又は業務用のための建築物等の建築の目的で土地又は土地の利用に関する権利を有していたものが、線引き後6ヶ月以内に届け出て、5年以内に当初目的のとおり行う開発行為 | 線引き変更時のみ |
14号 | (開発審査会に諮り判定するもの) 周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認められる開発行為 | 分家住宅、集落集会場、収用移転、介護老人保健施設等 |
法第43条による建築許可とは
市街化調整区域の開発行為の中でも、小規模な建築の場合、開発許可には至らず、建築許可の申請で足りることが法令で定められています。以下は、その事例です。
法第43条による建築許可の事例
内容 | 該当条項号 | 概要 |
日用品販売店舗 | 法第34条第1号 | 市街化調整区域内居住者のための日常生活に必要な飲食料品店、食堂、物販店、サービス店などの店舗等 |
集落内の公益的施設 | 同上 | 日常生活に必要な金融機関、医療施設、社会福祉施設、介護福祉関連施設、 幼稚園等 |
農林漁業関連施設 | 法第34条第4号 | 農林漁業にかかる加工施設・貯蔵施設・選果場・観光、農園施設等 |
工場敷地の拡張 | 法第34条第7号 | 適法に操業している工場の敷地拡張 |
沿道サービス | 法第34条第9号 | ドライバー等のための休憩機能を有する食堂・コンビニ等の沿道サービス施設等 |
地区集会場・防災倉庫等 | 同上 | 町内会・自治会などが設置する集会場、防災倉庫等 |
大規模既存集落における自己用住宅 | 同上 | 20年以上生活の本拠を有する大規模既存集落内(市街化調整区域内のみ)における自己用住宅 |
医療・社会福祉の関連施設 | 同上 | 病院・社会福祉施設の近接地における、既存施設に関連する社会福祉施設、介護関連施設の建築 |
分家等、子の世帯の自己用住宅 | 令第36条第1項第3号ハ | いわゆる「分家住宅」。親等の世帯が線引き以前から所有している土地への子の世帯の自己用住宅 |
旧既存集落内の自己用住宅(線引き前所有地における自己用住宅) | 同上 | 申請者が線引き以前から所有している土地での自己用住宅(線引き以前の所有者から相続された土地を含む) |
収用移転(公共事業等による移転) | 同上 | 道路拡幅、土地収用法対象事業、土地区画整理事業等による建築物の移転 |
線引き前宅地の利用(既存宅地) | 同上 | 線引き前から宅地で、現在地目が宅地の土地における、第2種低層住居専用地域で建築できる建物の新築や用途変更 |
住宅系の許可建築物の許可者移転(承継) | 同上 | 転勤や債務整理等、やむを得ない事情により、許可者を変更する場合(承継)。許可を受けて5年以上適法に使用され、同用途が必要。 |
開発審査会承認 | 令第36条第1項第3号ホ | 個別に開発審査会の承認をうけたもの |
他にも多くの事例がありますが、主な例を挙げてみました。申請には、それぞれ、個々に応じて、要件があります。
当事務所では、上記「適合証明」及び「法第43条による建築許可」のお取り扱いをいたします。開発許可、土地利用申請はお取り扱いいたしておりません。